仮想通貨(暗号資産)の取引で損失が出た場合、その損失を翌年の利益と相殺(繰越控除)したり、給与や株式の利益から差し引いたり(損益通算)することは、現行の制度ではできません。暗号資産の利益は雑所得に区分され、所得税法上、雑所得の損失は他の所得と通算できず、翌年への繰越の規定もないためです。一方、同じ年の雑所得の計算の中では、ある銘柄の損失と別の銘柄の利益は相殺されます。
この記事では、国税庁の「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」とタックスアンサーで確認できる現行のルールを整理したうえで、令和8年度税制改正の大綱(2025年12月26日閣議決定)に示された申告分離課税(20%)と3年の繰越控除の内容・適用時期、海外取引所(MEXC・BingXなど)で扱う銘柄が対象になるかという論点を、2026年9月22日時点の公表資料にもとづいて説明します。
仮想通貨の損失は繰り越せない(現行)|雑所得の損失の扱い
所得税法で他の所得と損益通算できる損失は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つの所得の計算上生じた損失に限られます(タックスアンサー No.2250・令和8年4月1日現在)。暗号資産取引の利益は原則として雑所得(その他雑所得)に区分されるため、暗号資産取引で損失が生じても、給与所得など他の所得から差し引くことはできません(国税庁FAQ 2-11・所得税法69条)。
翌年以後への繰越についても、上場株式等の譲渡損失やFX(先物取引に係る雑所得等)の損失には3年間の繰越控除の制度がありますが、暗号資産の雑所得にはこの制度がありません。つまり、ある年に暗号資産で100万円の損失を出し、翌年に100万円の利益が出た場合、翌年の100万円は全額がその年の所得として課税され、前年の損失は使えません。
| 相殺したい相手 | 可否 | 根拠 |
|---|---|---|
| 同じ年の別の暗号資産の利益(BTCの損失とETHの利益など) | できる | 同じ雑所得の中で収入と経費を合算して計算する |
| 同じ年の暗号資産の先物(証拠金取引)の利益 | できる | 暗号資産の証拠金取引も総合課税の雑所得(FAQ 2-12) |
| 同じ年の他の雑所得(原稿料・アフィリエイト収入など) | できる | 雑所得の金額は雑所得全体で計算する |
| 給与所得・事業所得・不動産所得 | できない | 雑所得の損失は他の所得から控除できない(No.2250・FAQ 2-11) |
| 上場株式・投資信託の譲渡益(申告分離) | できない | 分離課税の所得とは通算できない |
| FX(外国為替証拠金取引)の利益(申告分離) | できない | FXは先物取引に係る雑所得等の特例で分離課税、暗号資産は総合課税(FAQ 2-12) |
| 翌年以後の暗号資産の利益(繰越控除) | できない | 雑所得の損失に繰越の規定がない |
※ 「できる」の行は、同じ年の雑所得の計算の中で結果として相殺される、という意味です。雑所得全体がマイナスになっても、そのマイナスは他の所得から引けず、翌年にも繰り越せません。
その年の暗号資産取引の収入金額が300万円を超え、帳簿書類の保存がある場合は原則として事業所得に区分されます(FAQ 2-2・令和7年12月更新)。事業所得の損失は損益通算の対象で、青色申告なら純損失の繰越控除も関係してきます。ただし帳簿があっても営利性が認められない場合などは個別判断とされており、該当しそうな人は税理士に相談してください。
含み損を年内に確定すると同じ年の利益と相殺できる
繰越ができない以上、損失を利益と相殺できるのは「同じ年」だけです。年の途中で利益を確定している一方で、含み損の銘柄を保有したまま12月31日を越えると、翌年以降にその含み損を確定しても前年の利益とは相殺できません。年内に売却して損失を確定すれば、その年の利益から差し引いて所得を計算できます。
| ケース | その年の所得 | 翌年の所得 |
|---|---|---|
| BTCで+100万円を確定、ETHの含み損−60万円を年内に売却 | 40万円 | 翌年にETHを買い直して売却した損益は翌年分として計算 |
| BTCで+100万円を確定、ETHの含み損−60万円は翌年1月に売却 | 100万円 | −60万円(他の利益がなければ切り捨て。翌々年にも繰り越せない) |
※ 設例は必要経費を考慮していません。売却後に同じ銘柄を買い直すかどうかは投資判断で、価格変動と手数料を踏まえて決めてください。
海外取引所で暗号資産同士の交換(ETH→USDTなど)をした場合も、交換時点でETHを譲渡したことになるため損失が確定します(FAQ 1-3)。「円に戻さないと損失にならない」わけではありません。また、先物(証拠金取引)の損失も同じ年の現物の利益と相殺できます(FAQ 2-12)。
分離課税後は3年の繰越控除へ|令和8年度税制改正の大綱の内容
財務省が公表した令和8年度税制改正の大綱(2025年12月26日閣議決定)は、金融商品取引法等の改正を前提に、暗号資産の課税関係を次のように見直すとしています。
| 項目 | 大綱の内容 |
|---|---|
| 対象 | 居住者等が「暗号資産取引業(仮称)を行う者」に対して行う「特定暗号資産」(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る)の譲渡等 |
| 税率 | 他の所得と分離して20%(所得税15%・個人住民税5%) |
| 損失の繰越控除 | 特定暗号資産の譲渡等で生じた損失のうち、その年の特定暗号資産に係る譲渡所得等から控除しきれない金額は、一定の要件の下で翌年以後3年内の各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等から繰越控除 |
| デリバティブ | 特定暗号資産に係る暗号資産デリバティブ取引の雑所得等を、先物取引に係る雑所得等の課税の特例(申告分離)と損失の繰越控除の対象に追加 |
| 報告書 | 暗号資産取引業を行う者は、取引を行った居住者等の氏名・住所・個人番号・銘柄等を記載した報告書を翌年1月31日までに税務署長へ提出 |
| 対象外の暗号資産 | 総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産は、譲渡所得の特別控除・長期保有の2分の1課税を適用せず、損失は他の総合課税の所得との損益通算を適用しない |
| 適用時期 | 税率と繰越控除(上記①③)は、改正法の施行日の属する年の翌年1月1日(適用開始日)以後に行う特定暗号資産の譲渡等から適用。報告書は適用開始日の属する年の翌年1月1日以後の取引から |
※ 出典: 財務省「令和8年度税制改正の大綱」個人所得課税(2)。改正金融商品取引法は2026年7月15日に成立しており、当サイトの別記事のとおり適用は早ければ2028年1月1日からの見込みです。
この大綱どおりに制度化されれば、適用開始日以後に特定暗号資産の譲渡等で生じた損失は、翌年以後3年内の特定暗号資産の譲渡所得等から差し引けるようになります。株式やFXと同じ「損失を3年繰り越せる」仕組みが暗号資産にも入ることになりますが、次の3点は現時点で確定していない・注意が必要な論点です。
- 適用開始前の損失は持ち込めない:大綱は適用開始日以後の譲渡等に適用するとしており、それ以前の年に確定した損失や、移行時に抱えている含み損を新制度で繰り越す規定はない
- 対象は「特定暗号資産」に限られる:金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等が対象で、海外取引所だけで扱われている銘柄が対象になるかは、登録簿の内容と施行後の運用によって決まる
- 繰越控除には継続した申告が必要な見込み:株式の譲渡損失やFXの繰越控除と同様に「一定の要件」が付されており、損失の年から毎年申告を続けることが条件になると考えられる(詳細は法令・通達の公表待ち)
損失が出た年にやっておくこと
利益が出ていない年は所得税の確定申告義務は生じませんが、翌年以降のために次の記録を残しておくことを勧めます。
- 取引履歴(現物・先物・入出金・手数料)を年単位でダウンロードし、円換算のレートとともに保存する。海外取引所には年間取引報告書が無く、取得価額が不明になると売却価額の5%相当額しか取得価額として認められない(FAQ 2-7)
- 年末時点の保有数量と評価額(総平均法または移動平均法)を計算しておく。翌年の譲渡原価の計算は「年初の残高」から始まる(FAQ 2-4)
- 初めて暗号資産を取得した年なら、評価方法の届出書の提出を検討する(届出がなければ総平均法・国税庁A1-20)
- 損失年でも、他の雑所得(副業収入など)がある場合は相殺の対象になるため、雑所得全体で計算する
海外取引所の仮想通貨の確定申告のやり方(損益計算・計算書・納税) →
本記事は2026年9月22日時点の国税庁・財務省の公表資料にもとづく一般的な情報で、個別の税務相談ではありません。税制改正の内容は法案・法令の公布と国税庁の通達で確定します。具体的な判断は税理士または税務署に相談してください。
よくある質問
Q. 仮想通貨の損失は翌年に繰り越せますか?
A. 現行の制度では繰り越せません。暗号資産の利益は雑所得に区分され、雑所得の損失には翌年以後への繰越控除の規定がありません。株式の譲渡損失やFXの損失にある3年間の繰越控除は、暗号資産には適用されません。
Q. 仮想通貨の損失を給与所得と損益通算できますか?
A. できません。他の所得と損益通算できるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の損失に限られ(タックスアンサー No.2250)、雑所得の損失は給与所得など他の所得から差し引けません(国税庁FAQ 2-11)。
Q. 仮想通貨の損失と株やFXの利益は相殺できますか?
A. できません。上場株式の譲渡益やFXの利益は申告分離課税で、総合課税の雑所得である暗号資産の損益とは通算できません。暗号資産の証拠金取引(先物)もFXと違って総合課税のため、FXの利益とは相殺できません(FAQ 2-12)。
Q. 同じ年に別の仮想通貨で利益が出ていれば相殺できますか?
A. できます。暗号資産の損益は雑所得の中でまとめて計算するため、同じ年のBTCの損失とETHの利益、現物の損失と先物の利益、暗号資産の損失と他の雑所得(副業収入など)は、結果として相殺されます。ただし雑所得全体がマイナスになった分は他の所得から引けず、翌年にも繰り越せません。
Q. 分離課税になれば損失は3年繰り越せるようになりますか?
A. 令和8年度税制改正の大綱では、申告分離課税(20%)の対象となる特定暗号資産の譲渡等の損失について、翌年以後3年内の繰越控除を可能とするとされています。適用は改正法の施行日の属する年の翌年1月1日以後の譲渡等からで、早ければ2028年1月1日からの見込みです。適用開始前の損失を持ち込む規定はありません。
Q. 海外取引所で取引している銘柄も分離課税・繰越控除の対象になりますか?
A. 大綱では対象を「特定暗号資産」(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等)に限るとしており、海外取引所だけで扱われている銘柄が対象になるかは登録簿の内容と施行後の運用によって決まります。2026年9月22日時点では確定していません。
Q. 含み損がある仮想通貨は年内に売った方がよいですか?
A. 税務上は、年内に売却して損失を確定すればその年の利益と相殺でき、翌年に持ち越すと相殺できなくなります。ただし売るかどうかは投資判断で、価格変動や手数料、売却後に買い直すかどうかも含めて決めるものです。当サイトは売買の判断を示すものではありません。
出典・確認先
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